▲東北の隠花帝国・奥入瀬渓流にて。岩に張り付いてコケを眺めるFさん(11月・青森県)
ひきつづき奥入瀬渓流で見たこと・感じたこと・学んだことを綴っていく。
10日の講習会に向けてまずは奥入瀬渓流を下見することになった私たち。
ノースビレッジの河井さんらの案内で渓流の中でも
とくにオススメのスポットを順に巡ることになった。
観光客にも人気の「石ヶ戸」(前回記事参照)の
次に向かったのは、「白銀の流れ」だった。
▲ビューポイントには、看板がある。
▲ゆるキャラ・東北くん(だったかな?!)。改めて調べ直してみたのだが、WEB上ではその素性を追跡できず・・・。
東北6県の形がそのままキャラクターになっているとか。シンプルでなんかかわいい。
「ここにはステキなテーブルがあるんですよ」と紹介され、向かったところ・・・
▲おぉ!コケで一面覆われたテーブルが!
▲ここまでみっしりだと、もはやテーブルとして使うのははばかられる・・・。
湿度よし、日当たりよし、平面で生えやすいとあれば、コケにとっては優良物件まちがいなし。
ごらんのとおり多種多様なコケたちが押し合いへし合いで陣取り合戦。
テーブルとしては使えないけど、これはこれで生きたコケ標本集のようで楽しい。
▲テーブル側面にもコケ(おそらく「ナガミチョウチンゴケ」とのこと)。
「表面は混んでっから、おら側面でいぃんダ」(勝手に青森弁風。素人がすみません)。
なるほど、いい場所見つけましたねぇ。
コケならこんな垂直面でもノープロブレム。
こうしてどこかしら隙間を見つけては器用に群落を広げていく。
また、すこし上流の方へ歩くと・・・
▲コケ生す欄干。
なんと見事なコケロード。
まるでコケがエスコートしてくれているよう。
ちなみに、実はこの欄干から見た渓流の眺めが
「白銀の流れ」と称される絶景だったのだが、
コケを見るのに夢中になるあまり、
うっかり絶景の写真を撮り忘れるというシマツ。
▲遊歩道に渡された丸太もコケだらけ。ここで幅を利かせているのはクサゴケだ。
▲クサゴケのアップ。コケとしてはかなり大型、しかもここではやたらと大群落なのでよく目に入った。
茎は這い、枝は不規則に羽状に伸びる。山地の腐木によく生えるという。
▲クサゴケは雌雄同種なのでよく胞子体をつける。胞子体の柄が長く赤褐色なのが特徴の一つ。
▲階段の手すりもコケだらけ。「リスゴケっぽくない?」と小原さんと話していたコケ。
▲そのアップ。図鑑によると生育地域は「本州(東北以南)〜九州」とあるので、可能性がないわけでもなさそう・・・かな!?
このように、森の中に人間があとから作った・置いたあれやこれやを、
コケが見事に覆い尽くしている光景がいたるところで見られた。
ところで、「コケが人工物を覆っている状態」といえば、
▲コケに覆われた石像(神奈川県箱根の熊野神社にて)
↑こういう↑例もわりとよく見かける。
いわゆる「侘び寂び」世界のコケというのだろうか。
さりげなくコケが生している石像は、時の長い経過を感じさせる、静謐な、悠久の象徴であり、
古びたどこか物悲しい、わびしいものの代表格といった向きがある。これはこれで趣深い。
しかし、ここ奥入瀬のように、コケの生育環境として条件がバッチリなところでは、
コケが森づくりの先頭集団となり、人工物でも石でも腐木でも、
旺盛な生命力をいかんなく発揮しすべてを覆い尽くしていく。
そこには侘び寂びの物悲しさというよりも、
陸上植物のなかでもとりわけ原始的なカラダのつくりでありながら、
パイオニア的に地上に進出し、そのふかふかな群落のマットで、
ほかの植物の成長(つまりは森の成長)にさえ一役買うという、
大らかさ、圧倒的な生命力のまばゆさ、まっすぐさみたいなものを感じた。
とくにコケを風景として見るだけではなく目の前まで近づいて、
虫眼鏡やルーペでその一本一本にまで目を配ると、
そして手のひらで優しくなでてみたり、匂いをかいでみたりすると、
小さいながらも各々好き好きに枝葉を伸ばし、
空中の水分をめいっぱい取り込んで青々と輝く、
コケのパワフルな生き様、森を下支えしてきた底力みたいなものが
(感覚的にだけど)よくわかる。
こうなると人間はコケを筆頭とした自然界のほんのごく一部分に過ぎず、
私はいまこの森に、ちょっとだけお邪魔させてもらっっているだけ、
ひいては地球そのものにちょっとの間、いさせてもらっているだけにすぎないんだよなぁと思う。
そういうことを、コケを通してからだ全体で感じることができた有意義な森歩きだった。