▲コツボゴケ(6月、東京都内の公園にて)
前回の記事に書いたコケ観察会で、見直したコケがもう一つある。コツボゴケである。
ヤノウエノアカゴケと同様、低地の公園や寺社仏閣の庭などでよく見かける身近なコケのひとつであり、
またコケの中でもとくに大型でパッと見た姿も特徴があるため、コケ初心者でも見分けやすい。
というわけで、このコケもよくよく振り返ってみればじっくりと向き合ったことがなかったのであった。
▲コツボゴケの群落。大型で独特の黄緑色、そして大群落を作っていることが多いので、遠目からでもよく目立つ
コケ植物のからだは根っこを持たない。
そこで成長に必要な水と光をからだに素早く取り込むために、
多くのコケは葉の細胞は多層構造ではなく一層のみでできている。
コツボゴケのすりガラスのように薄い葉はその特徴を確かめるのに非常にわかりやすい例であり、
初心者向けコケ講座などでもコツボゴケの葉を光に透かしながら、実際にその薄さをルーペで見るレクチャーがよくある。
▲透けるように薄いコツボゴケの葉
そういえば、屋久島でエコツアーガイドをされているOさんは、
「コケは細胞が一層なので、緑色でも他の植物にはない透明感がある。
コケの葉が森に差し込む光を通す、この緑の透過光が森に独特の透明感のある風景を生む。
結果的に、コケがたくさんある森とそうでない森では、つくりあげられる景観がまったくちがってくる」
以前、そんなふうにコケの森の美しさについて話されていたのだけど、
私はコツボゴケを見るとその話をよく思い出す。
屋久島のコケの森にはなかなか行くことができなくても、コツボゴケの葉を一枚、ルーペでのぞきこみ、
その淡い緑色のきらめきを眺めているだけでまるで自分が屋久島の森にいるかのよう・・・
いや、むしろ自分自身がコケになって屋久島の森の木漏れ日に当たっているかのような感覚にさえなれるのである。
(とはいえ、実際の屋久島の森の中でコツボゴケはあまり見かけないのだけども)
この夢のようなトリップ感覚。
もしコツボゴケをのぞきこみ恍惚とした表情の女性を見かけたら、それはおそらく私である。
アブナイのでぜひ声はかけないでいただきたい。
しかしながら、まだコツボゴケをじっくりと見たことがない方は、ぜひルーペで見ることをオススメしたい。
注:コケは明るい場所で見ることが必須ですが、目の安全のためにくれぐれもルーペで太陽を見ないようにしてくださいね。
とはいえ、その美しさに浸るのはよいけれど、ついついそれで見慣れた気になってしまい、
コツボゴケとよく似た種類までコツボゴケに見えていることに、観察会に参加して、はたと気づいた。
コツボゴケとよく似た種類とは、そう、コツボゴケが属する「チョウチンゴケ科」の仲間である。
▲コツボゴケ雌株。
▲コツボゴケ雄株。
チョウチンゴケ科の仲間は、雌株はこのような提灯形の(サク)を持ち、
雄株は雄花盤(ゆうかばん)と呼ばれる、まるで花のような形の生殖器官を持つ。
そして先に挙げたように、透き通るような薄い葉を持つものが多い。
そうすると、この子も・・・
この子も・・・・
そしてこの子も・・・
なんだか誰もかれもがコツボゴケに見えてきたぞ!?
「これじゃいかん!」と思い、改めて複数の図鑑の
チョウチンゴケ科のページをじっくりと読み直すことにした。
要点を整理すると、つまりこういうことなのだった。
●チョウチンゴケ科は7つの小さなグループ(いわゆる「属」)で構成されている。
●コツボゴケは、7つのグループのうちの「ツルチョウチンゴケ属」のグループに属する。
●ツルチョウチンゴケ属は10種類のコケで構成されていて、コツボゴケの他にも
「ツルチョウチンゴケ」、「ツボゴケ」、「オオバチョウチンゴケ」などがある。
●ツルチョウチンゴケ属は直立タイプと這うタイプの茎をあわせもつのが大きな特徴である。
(コツボゴケと同様よく見かける「コバノチョウチンゴケ」は「コバノチョウチンゴケ属」に属し、茎は直立タイプのみ。
よく岩場で垂れ下がっているのを見ますが、あれは這っているのではなく直立茎が垂れ下がっている状態なのでしょう。
またよく見ると葉も透けるほど薄くはありません)
ツルチョウチンゴケ属かどうかを見分けるには、
直立茎と這う茎(匍匐茎)の有無を確かめるのが、
ひとつの大きなポイントなのだと思う。
さらに4月の観察会の時にAさんから、
コツボゴケとその他のツルチョウチンゴケ属のコケを見分けるには、
葉の特徴を知るのがポイントであることを教わった。
▲コツボゴケの葉のアップ。よ~く見てみると・・・
葉の上半分の縁にギザギザの歯が見える。一方、下半分はなめらかである。
この「上半分のギザギザ」こそがコツボゴケならではの大きな特徴なのだという。
さらに、コツボゴケと同じような場所に生えているが、
葉の縁全体に極小の歯があり(ルーペでやっと見えるか見えないか程度)、
また葉に横ジワが入っていると、それはツルチョウチンゴケであろうとのこと。
最後に、このことを忘れぬよう自分の中のまとめとして、今回もコケ絵日記を描いてみた。
絵のクオリティはともかくとして、こうして自分の手を使って描いておくと、
記憶にしっかり刻み込まれるのはもちろんのこと、次にこのコケたちと出会えるのがとっても待ち遠しくなる。
身近なコケにさえ待ち遠しさを覚えるのが嬉しくて、それがむしろ次も描こうというエネルギーになっているくらいだ。
欲を言えば、こうやって描き続けているうちに写生のウデがもう少し上達したらよいのだけどなぁ。