▲ミカヅキゼニゴケ(2016年5月・東京都)
6月末から仕事の依頼が立て続き、珍しく小忙しくしているうちに、
またすっかりブログの更新を怠ってしまった。
2か月前のことをいまさら書き起こしているようなペースでは、
いったい年内にあと何回ブログが更新できるのか・・・頭を抱えてしまうなぁ。
さて、まずは「その1」で止まっていた池上本門寺のコケレポートの続きである。
五重塔のホンモンジゴケの回復ぶりに胸をなでおろし、
次に向かったのはお寺に隣接する庭園「松濤園」だった。
こちらは常に一般解放されているわけではない庭園なのだが、
今回は以前、コケイベントでお世話になった本妙院のご住職のお口添えで
特別に入園を許可していただき、4年ぶりに園内のコケをチェックをする機会を得ることができた。
とはいえ、この庭園でもお目当てはただ一つ。
今回は園内のミカヅキゼニゴケが生えるスポットをチェックするのだ。
理由は、なにせ関西へ帰る飛行機の時間も迫っていたため、
園内すべてを見る時間的余裕がなかったということに尽きる。
せっかくのチャンスなのにもったいないが、仕方がない。
では、なぜミカヅキゼニゴケなのか。
じつは上京する少し前、岡山コケの会関西支部でいつもお世話になっているTさんから、
以前私がこの庭園で撮ったミカヅキゼニゴケの写真についてメールで問い合わせがあり、
どうしても再びこの目でこの庭園のミカヅキゼニゴケを確かめたくなったからだ。
ミカヅキゼニゴケというと、その名の通り、三日月形をした無性芽器(むせいがき・無性芽をためておくカップ)が何よりの特徴で、
多くの図鑑に「無性芽で繁殖する」という旨の一文が載っているのだが、じつは有性生殖についての情報はほとんど記載がない。
というのも、国内では胞子体がほとんど確認されていないからだ。
▲無性芽器をつけたミカヅキゼニゴケ
しかしこの春、Tさんがいつもコケ観察のフィールドとされている京都のとある地で、
雌器托(しきたく・雌株の生殖器官)をつけていると思われるミカヅキゼニゴケに出会ったというのだ。
そして、自宅に帰られていろいろ調べていくうちに私のブログの過去記事に行き当たったというわけなのだった。
4年前の当時、私もこの庭園でミカヅキゼニゴケのからだに何か付いている、もしかして生殖器官かも?!と思い、
岡山コケの会のベテラン会員さんに質問したり、海外のミカヅキゼニゴケについて書かれた本を読んだり、
またそ他の場所に生えているミカヅキゼニゴケにも生殖器官がついてないかと気にしながら各地で観察はしていたものの、
この4年、ついにフィールドで見つけることはなく、発見した当時に風船のごとくぷぅーっと膨らんだ好奇心も正直しぼみかけていた。
しかし!Tさんからのメールがきっかけで、私のミカヅキゼニゴケ熱が再燃した。
そもそものきっかけとなったあの松濤園のミカヅキゼニゴケたちが今どうしているか、どうしても見てみたい!
そこで、今回の再訪に至ったというわけなのだった。
さぁ、いま彼らはどうなっているのか。
4年前にミカヅキゼニゴケの大群落が生えていた一帯へ向かったところ・・・
▲現場。場所は午前中はわりと日がよく当たるところ。ただ影もあり、一日中日光が当たりっぱなしという感じではない
しかしながら、しゃがみ込んでまず目に飛び込んできたのは・・・
▲フタバネゼニゴケのにょきっと伸びた胞子体
▲そして、その足元には雌株と雄株が仲良さげに群落を広げているトサノゼニゴケ
あれ?ミカヅキは?!
4年前は確かにここにミカヅキゼニゴケの大群落がいた。
しかし、どうもいまは事情が違うらく、ここで今もっとも繁栄を極めているのはトサノゼニゴケなのだった。
ちなみに、トサノゼニゴケは今私が住んでいる西日本側では時々見かけることはあれど(どちらかといえば九州に多いという個人的な印象)、
じつは関東では、4年前にこの庭園で小さな群落を見たきりで他で見たことがない。
いま都内の真ん中でこのような大群落になっていることは、それはそれで珍しいように思うのだが、
今回は何と言ってもミカヅキゼニゴケが私の目的である。時間もないことだし、じっくり観察することはせず静かにスルーしよう。
また一帯は、トサノゼニゴケ、フタバネゼニゴケのほかにも、ヒメジャゴケ、ナミガタタチゴケ、コツボゴケ、アオギヌゴケの仲間などが、
この二大勢力の葉状体の隙間を縫うように乱立しており、まさに陣地を取り合うコケたちの戦国時代と化していた。
そして当のミカヅキゼニゴケはというと、どうもこのバトルには加わっていないようで姿が見えない。
もしや、もう完全に陣地を奪われこの地を去ってしまったのか。
そう思った時、一帯の端っこに目をやると植え込みの木々の足元で、ひときわべたっと地面にはりつく何かが見えた。
もしかして、あれがミカヅキゼニゴケか?!
▲お!この子たちかな?!
▲4年前と比べるとだいぶ群落は小さくなっていたものの、ミカヅキゼニゴケ健在!
そしてやっぱり!ミカヅキゼニゴケを知っている方ならひと目でお気づきのことだろう。
葉状体には無性芽器以外に、白いツノのようなものがたくさん頭をのぞかせているではないか!
後日、関西に帰ってから先述のTさんとさらなる情報交換をして、
結局、このツノのようなものは雌株の雌器托であるということがわかった。
ただ、4年前に見た時よりも、今回のそれはずいぶんと威勢がなく、小さく縮こまって見える。
※注)リンク先の過去記事:この時は勘違いして雄株生殖器官である「雄器托」と書いてしまっていますが、正しくは雌株の「雌器托」です。
どうもこのまま柄が伸びて胞子を飛ばすようには思われない。
もしかしたら不稔(受精をしていない状態)の雌器托なのかもしれない。
ならばこのまま朽ちていく運命なのか・・・・・・うぅ、ザンネン!
さらに4年前は雄株の雄器托(ゆうきたく)らしきものも見られたが、
今回はそういったものは見つけられなかった。
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▲こちらは2012年4月に撮った同地のミカヅキゼニゴケの写真。
白いしずくのような形の雌器托に囲まれるように、黒っぽい盤状のものが見える。これこそが雄株の雄器托であろう。
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ちなみにこれまた後日にあった岡山コケの会関西支部の集まり(コケサロン)で、今回の話をしたところ、
「私もこういうの見たことありますよ」とおっしゃる方がいらっしゃって、またびっくり。
Tさんが見つけたミカヅキゼニゴケといい、受精せず(雄株が周囲にいなかったからできなかったのであろう)、
されど春という季節柄、雌器托だけは伸ばす準備ができているミカヅキゼニゴケは探せば案外いるのかもしれない。
Tさんが京都で見たタイミングは4月~5月にかけて、そして今回私が見たのも5月下旬なので、
やはり来年もこのあたりの時季にミカヅキゼニゴケをしっかりチェックしておくことを忘れないようにしたい。
いやはや、久々の更新ですっかり長文になってしまったが、
じつはまだこの件については書き足りないことがあるのです。
次回につづく!
▲今回、群落を見た雑感としては、雌器托がついている葉状体は普段のミカヅキゼニゴケに比べて無性芽器の数が少ないように感じた
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池上本門寺ふたたび ~その2:ちょっと変わったミカヅキゼニゴケ~
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