「渓谷の樹木から垂れ下がる」
と聞けば、コケ図鑑を手に、それこそ渓谷沿いの林を
散策をしたことがある人ならば、きっとピンとくるはず。
そう、それは「キヨスミイトゴケ」(もしくはイトゴケ)の枕詞。
この言葉を聞けば、谷間に流れる川沿いで、
大きな木々の枝からぶらりと垂れ下がり、
涼しげに風にそよぐキヨさんの姿が目に浮かぶ。
しかし! キヨさんに近況を聞いてみると・・・・
「そんな時代もあったわね(フッ)」
なんていう答えが返ってくるかもしれない(や、あくまで私の妄想ですよ)。
というのも、今年に入って早3回、
思わぬところでキヨさんと出くわしているのである。
それは渓谷でもなければ、大木の枝でもない。
こんなところなのだ。
▲静岡県・伊豆(2月)
▲宮崎県(3月)
▲東京都(6月)
いずれも渓谷沿いではない、大木でもない、
そして人がよく通る場所にあるサツキの茂みばかり。
なんでまぁこんなところにいるんでしょう!?
最初の通報は、今年の1月頃。
静岡に住んでおられるコケ友Tさんからだった。
「図鑑で紹介されているのと違う、ちょっと変わった場所にキヨさんが生えてるんですよ」
その場所は静岡県内にある某旅館のお庭とのこと。
さて、行ってみますと・・・
▲一見、なんのへんてつもない歩道とその右にはサツキの茂み。
このサツキの茂みを正面から見ると・・・
▲キヨさんが垂れ下がりまくっている!
▲さらに近寄ってみる
キヨスミイトゴケは少なくとも乾燥した場所ではなく、
常に湿度が高めの場所がお好みのはず。
ただ、この庭の裏手には小さな山があり、
山と庭の境界となる斜面には小さな滝が流れている。
この滝の湿気が下手にある庭に降りてきて、
ツツジの茂み一帯を潤しているのだろうと推察。
それにしてもこれをコケと知らないと、
ツツジのお化けと気持ち悪がる人もいるかもね、
とTさんとひと笑いしたのだった。
それからしばらくのちのこと。
今度は、九州のコケ友Mさんとのメールのやり取りの中で、
「こんなところにキヨスミイトゴケがいて驚いた」と静岡での一件の話をしたら、
「実は私の身近にも似たようなキヨさんがいますよ!」とのお返事。
そこで3月に現地へ行く機会を得て、その場所に連れて行ってもらったところ・・・
▲さらに近寄ってみる
今回は人家の敷地内にある生垣のサツキ。
(写真には写っていないけれど)道を挟んだ向こうには池があり、
池の周りのアジサイの枝にもキヨさんが旺盛に生育しているのを確認。
ただし、池のそばにはサクラ(だったかな!?)のような背の高い木が、池に向かって枝をのばしているのだけど、
そこにはキヨさんの姿は確認できず。おそらく日当たりの問題もあるのだろう。
サツキにせよ、アジサイにせよ、込み入った枝々の隙間というのは、
陽射しはほどほどで、通気性もそこそこあるところ。
そんな場所を縫うように生えるのがキヨさん的にはお好みのようだ。
そして、最新の目撃は6月のこと。
東京都内にある御岳(929m)をコケさんぽしていた際に、
山道の入口にてまたも「キヨさん in サツキ」を発見。
▲一見、ただの茂みに見えますが・・・
▲裏に回ってみると、キヨさんがびっしり。
ここは山の中とはいえ近くに沢はなく、むしろこれから登山道に入るという
登山者が必ずといっていいほどよく通る場所。
いままでに何度もこの道は通っていたが、
まさかキヨさんがいるとは思ってもみなかったので、
サツキはずっとノーマークだった。
しかし、やはり過去2回の例もあり、
自分の中のコケサーチャーが、
無意識にもアンテナをはっていたのだろう。
こんな身近にいたなんて!
いやはや驚きである。
ちなみにこの場所からもっと標高の低い山道には、
いわゆるオードソックススタイルを貫くキヨさんたちが群生している。
▲御岳の麓近くの杉並木
▲枝にはびっしりとキヨスミイトゴケ(おそらく)。もはや本来のスギの葉が見えないほどコケに覆われている!
▲駐車場の向こうには沢が流れる。まさにキヨさんが気に入りそうな場所。
こういった群生地がまずはあって、
その一部がサツキの茂みの中に
家移りするようになったのか。
それを手伝ったのは風か、はたまた人間か。
そんな推察も楽しいひと時である。
▲こちらもサツキにキヨさん。バックには滝が流れ、まさに教科書通りのロケーション