▲スギの木の根元。いったい何を写してるの?!とツッコミたくなるショットではありますが・・・しかしヤツはここにいる!
遅まきながら屋久島コケフォレーレポートのつづき。
屋久島コケフォレー3日目は、
今回のコケ合宿で最も衝撃を受けた一日であった。
コケフォレーは毎日午前中は島内の異なる環境へ出向き、
それぞれの環境特有のコケを見て回る。
ご存じの方も多いと思うが、屋久島は九州本土の南に浮かぶ外周約130?ほどの島で、
レンタカーを借りれば3時間程度で1周できる。
しかし地形は決して平たんではなく、島の内陸には
九州一の高さを誇る宮之浦岳(1,936m)をはじめ、1800m級の険しい山々が連なる。
南にあるためつい温暖な気候をイメージしてしまうが、
冬は標高の高い場所では雪が降り積もるほど。
そのような地形的特徴から屋久島は「洋上のアルプス」の異名を持つ。
小さな島に標高の高い山々が連なるということは、
つまり海辺から内陸に向けて急激に環境が変わっていくということでもある。
屋久島では海岸付近の低地は亜熱帯性の森が広がり、
少し上がって標高1,000mあたりまでは冷温帯性で
東北から九州までの暖温帯に生えている照葉樹林が見られる。
さらに登り進めば「屋久杉」をはじめとする針葉樹の森が陣取り、
標高1,800mを越えた山頂付近になると亜高山帯の植生が広がる。
この標高差における植生の違いは小さなコケについてもまたしかり。
亜熱帯性の森と亜高山帯の森では、
見られるコケの種類がまったく異なってくる。
そういった意味でも、屋久島はひとたび訪れれば
九州から北海道までコケトリップができたような気分になれる、
とってもおトクな島なのである。
▲環境省「日本の自然遺産」より抜粋
さて、前置きが長くなってしまったが、コケフォレー3日目に
私たちが訪れたのは標高460mほどに位置する渓谷だった。
今回は苔類を専門に研究されている古木達郎さんが講師ということで、
あそこにもここにもキラキラと輝く蘚類の誘惑はあれど、それらをすべて振り切って
「今回は苔類のみに集中するぞ!」とひそかに決意する。
古木さんは(前の記事にも書いたが)素人の質問にも常に真摯に答えてくださる方で、さらには
「せっかく屋久島まで来たのですから、もし見たい苔類があったら言ってくれれば探しましょう」
とまでおっしゃってくださる。
もちろん社交辞令だったのかもしれないが、そのひとことにちゃっかり乗っかった私は、
「今日の観察地で、このコケは見られますか?もしいれば見たいのですが…」
と毎日のようにリクエストを出すシマツ。
その一つが、図鑑で見てひと目で心奪われた「ミジンコゴケ」なのだった。
そう、名前に「ミジンコ」などとついているのだ。
ただでさえ小さいコケ、そのなかでもとりわけ小型な種類が多い苔類、
さらに日本に600種類ほどいるその苔類の中において
「ミジンコ」の名を冠するコケとなれば、これはぜひとも見てみたい。
しかも平凡社のコケ図鑑によれば生育地域が「鹿児島県〜琉球、小笠原」とある。
つまり屋久島はエリア内であるが、地元・関西に帰ってからではどんなに見たくても見られないということ。
このチャンス、生かさずしてどうする!?
厚かましい私のミジンコゴケリクエストにも快諾してくださった古木さんは、
「いるところにはいるんですよ。スギやヘゴの木の根元、根元と土中間の辺りのね、少し暗くて湿りかけたような所にね」
と言いながら、ずんずんと渓谷の奥へ入っていかれる。
それを追っかける私と同じくミジンコゴケに興味津々のコケ好き数名。
(図鑑によれば茎の長さは約5?、幅はたった0.2〜0.4?。そのようなミクロなコケ、いくら古木さんでも見つけられるのだろうか・・・)
すこし不安になりながら古木さんの背中を追いかける。
いくらなんでもそんなすぐには見つからないだろうと高をくくっていた矢先・・・
「あ、ここにいますね〜」
とあっさりおっしゃる古木さん。
「えっ(早っ!) ミジンコゴケ、そこにいるんですか?!」
▲「はい、ここです」とスギの根元を指をさす古木さん
あわてて駆け寄るが、どこにいるんだか私にはさっぱり見えない。
「す、すみません、どこでしょう…(汗)」
「ここです、ここ。いや〜、けっこうな大群落だな〜」
と言ってミジンコゴケがついた樹皮の一部を手渡してくださる。
▲ちっちゃ!緑のモヤモヤは見えるが、小さすぎて形がよくわからない
そこでルーペでよく見てみると・・・
絡み合うように生い茂る透明感のある美しき緑色。
そしてルーペで見てもやはり茎と葉の区別がよくわからない。
なんだか頼りなげで、緑色の糸こんにゃくのようにも見える。
こ、これもコケなのか・・・。
「適した環境を探せばいる所にはいるコケですが、ここまで大きな群落は珍しいですね」
と古木さん。
自分が想像していたよりも小さく、そしてあまりに簡素なつくりに驚きつつ、
この樹皮の破片を持ち帰り、顕微鏡で観察することにする。 (つづく)